AI生成コンテンツの改変・二次利用と著作権:技術的観点からの法的論点
はじめに
近年、テキスト、画像、音声、コードなど、多様な形式のコンテンツを生成するAIツールが広く普及しています。これにより、クリエイターや開発者は自身の創作活動や開発プロセスにAIを積極的に組み込むようになり、新たな表現の可能性が広がっています。一方で、AIが生成したコンテンツをさらに加工したり、複数のAIツールを組み合わせて編集したりするケースも増えており、このような「改変」や「二次利用」が著作権法上どのような意味を持つのか、技術的側面から詳細に検討することが求められています。
著作権法における「二次的著作物」の概念は、既存の著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他翻案することにより創作され、かつ、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を維持しつつ、これに新たな創作性を加えることによって創作された著作物を指します(著作権法第2条第1項第11号、第28条)。AI生成コンテンツについても、それが著作物性を有すると仮定した場合、その改変や二次利用が「二次的著作物」の生成に該当するか、あるいは新たな独立した著作物と見なされるか、あるいは単なる複製・翻案権侵害に該当するかといった論点が生じます。
本稿では、AI生成コンテンツの改変や二次利用がもたらす著作権上の課題を、技術的な側面から掘り下げて解説します。具体的には、AIによる生成プロセスや改変技術が、著作権法上の「創作性」や「類似性」の判断にどのように影響しうるのか、また、使用するAIモデルのライセンスや利用規約が改変・二次利用にどのような制約を与えるのかといった点に焦点を当てます。
AI生成コンテンツの「改変」を技術的に捉える
AI生成コンテンツの改変は、人間の手による従来の著作物改変とは異なる技術的な特性を有することがあります。これを理解することは、著作権上の論点を検討する上で重要です。
生成プロセスの制御性と改変
生成AIモデルは、入力されたプロンプトやパラメータに基づいてコンテンツを生成します。このプロセスは確率的な要素を含む場合が多く、全く同じプロンプトやパラメータを与えても、完全に同一の出力が得られるとは限りません。しかし、シード値を固定したり、特定のサンプリング手法やデコーディング戦略(例:Top-pサンプリング、ビームサーチ)を選択したりすることで、生成結果にある程度の再現性や制御性を持たせることが技術的に可能です。
AI生成コンテンツを改変する際、ユーザーは元の生成物を直接編集するだけでなく、元の生成物を参考にしつつ、プロンプトやパラメータを調整して新たな生成を行うこともあります。例えば、画像生成AIで出力した画像を気に入ったが、一部の色合いや構図を変更したい場合、元の画像を入力画像として参照したり、あるいは元の生成に使用したプロンプトに修正を加えて再生成したりすることが考えられます。
このような技術的な改変プロセスにおいて、元の生成物と新たな生成物との間にどれだけの「創作的な寄与」が加えられたかが、法的な「翻案」や「二次的著作物」の成立要件である「新たな創作性」の判断に関わる可能性があります。単にパラメータを微調整しただけであれば、新たな創作性は認められにくいかもしれませんが、プロンプトを大きく変更したり、複数のAIツールを組み合わせて大幅な編集やスタイル変換を行ったりした場合は、新たな創作性が認められる余地が生じます。
類似性の技術的評価と著作権侵害
AI生成コンテンツの改変・二次利用において、元の生成物や、さらにその元の生成物の学習データとなった既存の著作物との類似性が問題となることがあります。著作権侵害が成立するためには、「依拠性」と「類似性」の要件を満たす必要があります。AIの学習プロセスにおいては、モデルが学習データに「依拠」していると解釈できる場合があり、生成物が特定の学習データと類似している場合に著作権侵害のリスクが生じます。
AI生成コンテンツの類似性を技術的に評価する手法はいくつか存在します。例えば、画像であれば画像認識技術を用いて特徴量を抽出し、特徴量空間上での距離を計算することで類似度を数値化できます。テキストであれば、単語埋め込みベクトルや文書埋め込みベクトルを用いて意味的な類似度を評価したり、構文解析や形態素解析の結果を比較したりすることが考えられます。コードであれば、AST(抽象構文木)の比較やコードメトリクスの分析が有用かもしれません。
これらの技術的な類似性評価は、法的な判断における「類似性」の証拠として提示される可能性があります。ただし、技術的な類似度が高いことが、直ちに法的な「表現上の本質的な特徴の同一性」を意味するわけではありません。法的な判断は、表現形式、対象分野、創作の経緯など、様々な要素を考慮して総合的に行われます。技術専門家としては、AI生成コンテンツの改変が、技術的に元のコンテンツや学習データからどれだけ「離れた」と言えるのかを客観的に評価する手法を理解しておくことが、リスク判断の一助となります。
AIモデルのライセンスと二次利用
AI生成コンテンツを改変・二次利用する際には、そのコンテンツを生成するために使用したAIモデルや、元のコンテンツ自体の利用規約・ライセンスが重要な制約となります。特に、オープンソースのAIモデルを利用する場合、そのライセンス条項は厳密に遵守する必要があります。
多くのジェネラティブAIモデルには、モデル自体の利用に加え、そのモデルを用いて生成されたコンテンツの利用方法に関する条項が含まれています。例えば、Stable Diffusionなどが採用しているCreativeML Open RAIL-Mライセンスは、モデルの配布や利用方法に加え、生成コンテンツに関する利用条件(例:違法、有害、中傷的なコンテンツの生成禁止)を定めています。このようなライセンスが、生成コンテンツの改変や二次利用(例:派生著作物の作成や配布)に対して何らかの制約を課しているかを確認する必要があります。
特に、モデルのライセンスが「生成コンテンツの派生著作物にも同じライセンスを適用すること(Share-alike条項)」を求めている場合、そのモデルで生成したコンテンツを改変して新たなコンテンツを作成し配布する際には、元のモデルのライセンスを継承させる必要があるかもしれません。技術者は、自身が利用しているモデルのライセンス文書を詳細に読み解き、改変・二次利用がライセンス違反とならないかを技術的な観点から評価する必要があります。モデルが出力するメタデータやウォーターマークが、ライセンス情報や生成履歴を含んでいる場合、それらを適切に処理することも技術的な課題となります。
開発者・クリエイターへの示唆
AI生成コンテンツの改変・二次利用に関する著作権上の論点は複雑であり、現行法では明確な判断基準が確立されていない部分も多くあります。しかし、技術専門家として、以下の点を考慮することは重要です。
- 利用規約とライセンスの徹底理解: 使用するAIツールやモデルの利用規約、特にライセンス条項(オープンソースライセンスを含む)を深く理解してください。生成コンテンツの改変や商用利用、派生著作物の作成・配布に関する制限の有無を確認することは最低限必要です。技術的な制約(例:モデルの出力形式、メタデータ)がライセンス遵守にどう関わるかを検討してください。
- 改変度合いの客観的評価: 自身が行うAI生成コンテンツの改変が、技術的に元のコンテンツからどれだけ独立したものであるか、またどれだけ新たな創作性が加わっているかを客観的に評価する視点を持つことが有用です。可能な場合は、類似性評価の技術的な手法を検討し、リスク判断の一助とすることも考えられます。
- 著作権侵害リスクの回避: 他者のAI生成コンテンツを改変・二次利用する際には、元のコンテンツが著作物性を有するか、そしてその改変が権利侵害とならないか、慎重に判断する必要があります。特に、元のコンテンツが既存の第三者の著作物に依拠して生成されている可能性も考慮し、技術的な類似性評価ツールなどを活用してリスクを低減する努力が求められます。
- 透明性と記録: 自身がAI生成コンテンツを改変して新たなコンテンツを作成した場合、その生成・改変プロセス(使用モデル、プロンプト、パラメータ、編集内容など)を技術的に記録・管理することは、将来的な法的・倫理的な説明責任を果たす上で役立つ可能性があります。
まとめ
AI生成コンテンツの改変や二次利用に伴う著作権上の論点は、技術的な側面と法的な概念が複雑に絡み合います。AIによる生成プロセス、改変技術、そしてモデルのライセンスや利用規約は、著作権法上の「創作性」や「類似性」、そして利用可能性の範囲を判断する上で重要な要素となります。技術専門家として、これらの技術的な背景を深く理解し、自身が関わるAI生成コンテンツのライフサイクルにおける著作権リスクを適切に評価し、対応していくことが求められています。今後の技術の進化や法整備の動向を注視しつつ、信頼できる情報に基づいて慎重な判断を行う姿勢が重要です。